☆ Ray Bradbery ☆
● 怖いものしらずのブラッドベリのパロディ
あまりに会社が暇なので仕事中に書く。 2000.10.13 アップ | |
上に同じ。2000.10.13 アップ | |
虎の三題話に投稿した作品。お題は「船・21世紀・ブラッドベリ」 |
扉の入り口で、ロボットが女性の声で迎え、客の一人のチケットの半券をちぎり取った。 男はスキップでもしそうな足取りで扉をくぐっていく。背後で重い扉が閉じられた。 目の前には、土に血とチョコレートを混ぜてこねたような色の道が、まっすぐ、 そして所々からかうように軽く蛇行して、霧にけむる未知の世界へ続いている。 両脇にはプラタナスの街路樹が植えられ、その葉の色が秋の近さを知らせた。 『白線から出ないでください』という看板の現実に憮然としながら、聞き分けよく爪先を揃える。 そして、男は前の道に目をこらした。
ミルク色の靄の中から、ごちゃまぜに並べられたクレヨンのような配色が垣間見えた。近づいて来る。 「あれか?」 風もないのに、その色の集団はゆらゆらと揺れていた。まるで、空の女神が作りそこなってゴミ箱に捨てた虹の布地のようだ。 「あ、あれは・・・」 男は目をそむけると、腹を立てながら出口へ向かった。 シドニー五輪開会式の日本選手団だった・・・。
ミルク色の靄の中から、小柄な丸い影が垣間見えた。近づいてくる。 「あれか?」 短い手を精一杯振り、背筋を伸ばして歩いてくる。威風堂々と、道の真ん中を。 「あ、あれは・・・」 一休さんだった。 「はしでなく、ちゃんと真ん中を歩いて来ましたよ」と小坊主はにこにこして言うと、男の脇を通りすぎて行った。
老婆は、衰えた目で、道の向こうを凝視すると、両手で数珠を握り締めた。 ミルク色の靄の中から、うっすら、何かの影が垣間見えた。近づいてくる。 「むかえが来る・・・」 喉から、ガマがえるも顔をしかめるようなしゃがれ声が絞り出された。 ジャラジャラと数珠をこすり合わせる音は、「何か」を迎え入れる拍手にも似ていた。 「むかえが来た。ついにむかえが来たのか」 その影は、老婆に近づくと、そっと肩に手をおいた。 「ご老人。新潟のかたですね?『い』を『え』と発音するなんて」 向井千秋だった・・・。 |
『“僕の地下室へおいで”って言われて行ってみたはいいが』
高校へ進学してからすっかりご無沙汰だった幼なじみの耕太が、 私の腕を引っ張って、自分の家の地下室へ連れ込んだ。 と言っても、私たちは色っぽい関係ではない。 彼はいたずらっこみたいに笑うと、 「見て見て見て!」と、部屋の隅にかぶせられていた布の覆いをはずした。 まるでクレヨンで描いた傑作を母親に見てもらう幼児みたいだ。 布の下に隠されていたものは、ただの木の箱だった。 中には、土と枯れ葉がサンドイッチのように詰め込まれている。 『この、ミミズだけが喜びそうなバスケットを見せびらかすために、私を引っ張ってきたってわけ?』 私が文句を言おうと口を開きかけた、その時。 腐りかけた枯れ葉の間から見えた・・・、こけしがツイストを踊ったままフリーズしたような・・・、このいびつな形・・・。 「マツタケーーー?!」 耕太は満足げな微笑みで、顎が首につきそうなほど大きくうなずいた。 「みずほは料理が上手だから、何か作ってもらおうかと思ってさ」 「どうしたのよ、この松茸!」 天然ものはスーパーでさえ「いちまんえん」する。中国産でも一籠三千円くらい。 だいたい、他のきのこが発泡スチロールの入れ物にラップをされて売られているのに、 こいつらはお殿様みたいに籠の中で婉然と微笑んでいるのだ。 松茸ごはんに、土瓶蒸し、お吸物。軽くいぶしても旨い。 わたしは、ごくりと唾を飲み込んだ。 「なんであんたが松茸なんて育ててるのよ」 「通販で売ってるんだよ。松茸栽培セット」 「通販?」 通販の速達小包。きのこ。地下室・・・。私の額を冷たい汗が流れた。 「厭な予感」を通り越している。私の中には確信があった。危険だ。危険すぎるキノコ。 ・・・ しかし・・・。松茸なのだ!買えば一万円するのだ! 私の心は動揺し、葛藤し、乱れていた。決意をしかねて、耕太を見上げる。 「松茸ごはんがいいかなあ。作ってくれるよね」 「これだけたくさんあるんだから、誰かに売ろうよ!そのお金で天然ものの松茸を買おう!」 口から飛び出した名案に、自分でも小躍りしたい気持ちだった。 そうだ。売って、そのお金で、安全な松茸を買えばいいのだ。 「だめだよ、みずほ。ほら、注意書きを読んでごらん」 『この商品は、ご家庭で楽しまれる以外のご使用は法律で禁止されています。 販売または無料で譲渡した場合も罪に問われます』 「・・・・・・。」 私は悔し紛れにその注意書きを手で握り潰した。 松茸ごはんか、きのこに世界征服される未来か。私は究極の選択を迫られていた。 地下室の蛍光燈の青い光の中を、松茸に似たものの胞子があざ笑うかのように舞っていた。 |