『トゥーム・ジャンキー・ファミリー』





1〜4話

5〜7話




★ 第1話 アイテム拾い

 黒太家は、休日のランチに近所のファミレスに出かけた。
 家族構成は、9歳のらら子とママ、それからおばあちゃん。
 パパは現在、海外に単身赴任中なのだ。
 らら子は海老グラタンを、ママはタイ・カレーを、おばあちゃんはまぐろ丼を食べた。

 おいしく食事を済ませ、レジで順番を待っていると、前のお客さんがお釣りの100円玉を落とした。
 それはコロコロと床を転がり、らら子の足元でコロンと倒れて止まった。
 らら子はそれを拾ってあげようと、しゃがんで手を伸ばす。
「あはん」
 思わず声が出て、らら子は両手で口を覆った。ヤバイ。ママに聞かれてしまったかしら?
 恐る恐るママの顔を盗み見る。
 ダメだ。ママは腕組みをしてコワイ顔をしている。
「らら子。またママの言いつけを聞かずに、トゥーム・レイダーを2時間以上連続プレイしたわね。
 アイテムを拾う時のララの口癖が移るまでやるなんて。
 しかも、『あはん』と言うのは、シリーズ中一番ヘビィと言われている『2』だわ。体に毒だから、『2』はやめなさい。もう少しおねえさんになってからね」
「・・・はぁい」
 らら子はいいお返事をして、その100円を落とし主に返してあげた。
 その時、おばあちゃんが、ついていた杖を取り落とした。おばあちゃんは足が悪いのだ。
「おおお」
 慌てて、拾おうとして、曲がっている腰をさらに曲げた。
「あはん」

< END >


「玲羅さん、悪気はないんだよ、怒らないでくださいよ」
 おばあちゃんは、ファミレスからの帰り道、ずっとママに謝りながら杖をつき続けた。
「怒っているんじゃないんです、おばあちゃんの体を心配しているだけです!」
「でもママ、ゲームはボケ防止にも効くんだって」
「・・・。うーん。そうねえ。
おばあちゃん、休憩しながら遊んでくださいね」
 ファミレスの店舗の裏には、可燃ゴミの袋がいくつか積み上げられていた。上からネットがかぶされたそれを、木の上に止まったカラスが、恨みがましい様子で見つめていた。
 カ〜。カ〜。
「はっ。カラス!」
 三人は一斉にキッと視線を上げた。
「カチャッ!」
「カチャ!」
「かちゃぁ!」
 三人とも口でそうつぶやき、ピストルを両手で構える真似をした。
「あれ?」
「まあ」
「おやおや」
 三人とも既に末期症状であった・・・。

< END >


★ 第2話 ベランダ

 それは、とても天気のいい日だった。
 ママは、2階のベランダに、らら子の敷き布団と毛布を干していた。
 この辺りは、駅からほどよく離れた緑の多い新興住宅地で、高いビルも無い。ベランダからは、学校の時計台まで見える。
 黒太家は、同じ形に作られた建て売り住宅の一軒である。隣もその隣もまたそのお隣も。同じドア、同じ窓、同じベランダがついている。
 お隣のベランダには、もう、洗濯物がたくさん干してあった。お隣の奥さんは早い時間にパートに出ているので、洗濯を干すのも早いようだ。
 と、その時、びゅーっと強い風が吹いて、お隣の洗濯物が一枚、洗濯バサミからはずれてこちらに飛んで来た。枕カバーだった。
 お隣には今誰もいない。玄関から返しに行くことはできないのだ。
 ママは、枕カバーをぎゅっと握りしめると、ベランダの淵に立ち、そこから、一歩、二歩、三歩と後ずさりした。
『右からよ! ランニング・ジャンプの走り出しは右!』
 走れ! そして・・・。
 ジャンプ!
「はっ!」
 方向キーで目標修正!
 アクション(捕まり)ナシで、普通に足で着地!
「よぉし。やったわ」
 ママは隣のベランダにノーダメージで着地した。そして、すぐに枕カバーを元通りに干して、再びランニング・ジャンプで戻った。
 ママはにやりと後ろを振り返った。ポニーテールに結んだ髪を風になびかせながら。・・・と。隣のベランダの、エアコンの室外機の上に、銀のシークレット・アイテムが乗っているのに気づいた!
「しまった! 確認を怠った!」
 ママは悔しさに地団駄を踏んだ。簡単な動作であっても、探索を怠ったせいで同じ場所に二度行くほど、不名誉なことはないからだ。
「くそう。仕方ない、また飛ぶか・・・」
『でも、なんで、お隣のベランダにシークレットがあるのかしら?』と不思議に思いながら、ママはまた三歩助走を取るのであった。

< END >


★ 第3話 逃げろ

 らら子は5時間目の授業を終えて、下校の途中だった。あの角を左に曲がれば、5軒目がうちだ。
『おやつ、何かなあ。ホットケーキがいいなあ』
「あら、おかえり」
 今、ママがらら子の前を通りすぎた! すごい速さで。しかも・・・炎も一緒にらら子の前を横切った気がした。
 らら子はふり返る。ママは、火のついたたいまつを握って、全速力で遠ざかって行った。
「ま、ま、まさか・・・?」
 らら子が茫然としていると、今度は、もう少しゆっくりしたスピードで、おばあちゃんがらら子の前を通り過ぎた。おばあちゃんは足が悪いので、走るのも遅い。そして、やはり右手に炎が燃えるたいまつを持っていた。
「おばあちゃん! も、もしかして、台所でゴキブリが出た?」
「そうなんだよ〜。らら子も早くお逃げよ〜」
 そんな会話をしているうちに、向こうから、黒い虫の大群が押し寄せて来た。
「うぎゃ〜」
 
< END >
* 注釈。ゲームで、わらわらとゴキブリみたいな黒い虫が大量に出てくるシーンがあります。虫は銃で殺せません。ひたすら逃げるしか無いです。火のついたたいまつを持っていると、あまり寄って来ません。


★ 第4話 嫌な予感

 夏休みのある日、らら子とママは、二人で横浜へ遊びにでかけた。らら子が、「どっこも連れて行ってくれないから、絵日記がかけなーい」とダダをこねたのだ。
 山下公園や野毛山動物園を見た後、おなかがペコペコだったので、中華街へ行った。
「うわあ。中国のお城みたいなお店がいっぱい! 綺麗だねえ! どこのお店にはいるの?」
 らら子ははしゃいで、一店ずつ目を輝かせて覗き込んだ。
「ちっちっ、らら子。南京街はね、おいしさと店の立派さは関係ないのよ。立派な店はそれなりに高いけどね。
裏通りに行くと、お店は汚いけど、安くてオイシイ店がいっぱいあるの」
 ママは結婚する前は横浜に住んでいたので、中華街にはちょっとうるさい。
 で、ママのお薦めの、少し奥まったところにある、間口の狭い中華料理店に入った。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか? お煙草はお吸いになりますか?」
 そうは言ってもさすがにレストラン。入り口では、白いエプロンのウエイトレスさんが迎え、席まで誘導してくれた。
 ウエイトレスさんは、メニューと、水とおしぼりと、そして『たいまつ』をテーブルに置くと、
「ご注文がお決まりになりましたら、お声をかけてください」
と、にこやかに去って行った。

< END >





第5話 鍵探し

「マーマー。ララ子の自転車の鍵、知らなーい?」
 運動靴を履いてから、ズボンのポッケに鍵が無いことに気づいた。靴を脱ぐのが面倒で、ララ子は玄関から叫んだ。
「知りませんよ!自分できちんと管理していないからいけないのよ!」
 台所から叫び返すママの口調は冷たい。夕飯を作っている最中かもしれない。絶対一緒に探してはくれなさそうだ。
 仕方ないので、靴を脱いで家に戻り、鍵の探索を始めた。
 自分の部屋の、机の引出し。無い。小物入れ。無い。昨日着たカーディガンのポケット。無い。
「うーん。どこだろう・・・」
 そうだ!鍵って言えばあそこに決まっている!
 ララ子は脱衣所でハダカになると、ジャボン!と湯船に飛び込んだ。息を止めて潜り、湯船の底を旋回すると、鍵は簡単に見つかった。
「そりゃあ、わかりやすいけど。ママ、ヒドイよ〜」
 今が冬で無くてよかった。髪を拭きながらそう思うララ子だった。

< END >
ララよりララ子ちゃんへ
フフフ、鍵の場所も、だいぶ見当をつけるのがうまくなったようね。
私も、南極の海で鍵を探した時は大変だったのよ。これからもがんばってね。
(注釈)
すんません(笑)。ララ・メールという宣伝メールがあるんですよ。
メルアド登録したファンに、新作情報やイベント情報やプレゼントなどを告知してくれるのですが。
それが、「ララが喋っている」という変な女言葉文章で、上記のような感じの口調で、すっごくオカシイんです。
ゲーム会社の広報とか宣伝の人が書いていると思うんですけど、けっこう笑えます。

第6話 虎退治

ララ子がまだ3歳だった頃。
パパはまだ本社勤務だったので、家にいた。パパは、ララ子に水鉄砲を2丁買ってくれた。
「ばきゅん、ばきゅん」
 ララ子は嬉しくて、お外で遊ぶ時は、いつも持って歩いた。ご近所の鉢植えに水鉄砲でお水をあげたりした。
「まあ、ララ子ちゃん。うちのアロエにありがとうね」
 おばさんに褒められたりして、ますます得意に撃ちまくる。
「あ、鷲だ!」
 カチャ!両手で水鉄砲を構える。
「ばきゅん、ばきゅん」
 シャーと、たいして勢いも無い水の棒が、敵を襲う。それでも敵は驚いて「コ、コ、コ、コ・・・」と走って逃げた。
「こら、ララ子ちゃん!会長さんちのニワトリを苛めちゃダメでしょ!」
 ママに叱られてしまった。

「あ!虎だ!」
 カチャ!
「ばきゅん、ぼきゅん」
「こらー、お向かいのタマに水かけちゃダメです!」
『虎に似ていたのに・・・。』

「あ!サウスパシフィックアイランドの村人!」
 カシャ!
「ばきゅん、ばきゅん」
「ララ子っ!お隣のおにいさんでしょ!」
『サウスパシフィックアイランドの村人に似ていたのに・・・。』
 ちなみに、お隣の家の姉弟は、OLのおねえさんもサウスパシフィックアイランドの村人に似ていた。

「ララ子ちゃん。虎よっ!ほら、今度は撃っていいのよっ!」
「え?ママ、だってこれは・・・」
 それは夜中の12時頃。泥酔したパパが、玄関前の廊下に靴を履いたまま大イビキで寝そべっていた。

<END>
ララよりララ子ちゃんへ
偉いわ。『ドジ○』って言葉は使ってはいけないこと、まだ小さいのによく知っていたわね。
でも攻略本に「出てくる村人を次々倒して進む」なんて書かれると、わたし、すごく悪人みたいで悲しいわ。

第7話 基本

 これも、ララ子が3歳の時のことだ。
「ララ子!・・・いいのよ、ララ子はまだ3歳なのだし、オネショしても仕方ないの。ただ、隠さないでママに正直に言って欲しいの。シーツを洗ったり、お布団を干したりしなきゃいけないでしょ?」
「違うもん!ララ子、オネショなんかしてないもん!」
「だって、ほら、お布団がこんなに濡れてるでしょ?」
 寝る前に、銃を枕の下に隠していたララ子であった。

< END >
ララよりララ子ちゃんへ
ありがとう、映画もちゃんと見てくれているのね。
無実なのに疑われると悔しいものよね。わたしも、フォンクロイを殺したと疑われて、辛かったわ。
今まで、罪の無い人たちもいっぱい殺したけど、自分がやってないのに疑われるのはイヤよねえ。
でも、布団を干すママの手間は同じだけど。



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